触覚系の持つ触認識機能は4種類程度に分類できる。このうち、微細表面粗さ認識は、対象表面のつるつる・ざらざらの程度を触ることにより知ることであり、触覚系が極めて得意とする機能である。しかし、この認識能力についての研究は従来ほとんどみられなかった。本研究では、この微細表面粗さ認識能力に着目し、その表面粗さ認識絶対閾と弁別閾を測定する一連の実験を行った。また、微細表面粗さ認識を可能にする感覚情報処理機構とはいかなるものかについての理論的な研究も遂行した。 実験用剌激には酸化アルミニウム粒子の塗布された精密研磨用フィルムを用いた。粒子直径が指定された範囲内にあることは走査電子顕微鏡による観察で確かめた。実験の結果、微細表面粗さ認識絶対閾は粒子直径1μmと3μmの刺激の間にあることがわかった。また弁別閾は剌激の粒子直径に依存して変化し、2.4μm〜3.3μmの範囲にあった。これらはいずれも極めて微細な領域にあり、表面粗さ認識に関する触覚系の能力が非常に優れたものであることが明らかとなった。 この微細表面粗さ認識を可能にする感覚情報処理機構について、現在までに知られている生理学的・解剖学的根拠に基づき考察した。皮膚機械受容単位の密度および神経発射能力からみると、刺激表面の凹凸情報をそのまま神経発射の時空間パターンとして表現することはできない。そこで、微細表面粗さ弁別実験のWeber比を振勤振幅弁別実験のWeber比と比較することなどにより、結局、"微細表面粗さ弁別の際には、刺激凹凸の振幅情報のみが用いられる"という仮説に到達した。 今後は、この仮説の妥当性について検討するとともに、感覚代行、ロボティクスなどに本研究で得られた知見がどのように応用できるかについても探究していく予定である。
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