研究手段として平成3年度に開発したシステムを用いた。このシステムでは、高速ニューロエミュレータ(NEURO-07)上で階層型ニューラルネットワークモデルを用いて、パターン情報からの概念形成のシミュレーションを行うことができる。パターン情報と出力(概念)が1対1に対応している場合(単一出力表現)と、1つのパターン情報に対して複数の出力(概念)が重複して対応している場合(分散出力表現)について調べた結果、人間の脳の情報表現に近い分散出力表現は、実際に学習が可能であり、また単一出力表現に比べて汎化能力が高いことを既に示した。平成4年度では、階層型ニューラルネットワークにおいて特徴抽出や情報圧縮を行っていると考えられている中間層に注目した。図形パターン認識時の中間層ユニットの活性値を調べた結果、分散出力表現の場合、中間層ユニットも関連のある図形群に対して重複して反応することが分った。さらに中間層のユニットを部分的に不活性化していくと、分散出力表現の方がシステムとしての頑健さがより大きいことが分かった。次に知的概念形成におけるゆらぎの役割を、上記のシステムを用いて調べた。概念形成を行うニューラルネットワークのユニット間結合係数に種々の大きさのノイズを加えて、システムの汎化能力がどのように変化するかを調べた結果、適当な大きさのゆらぎ(ノイズ)は、汎化能力を高めることが分かった。平成5年度は、以上の手法と結果を総合して、人間の大脳皮質の連合野において形成されると考えられる概念形成の総合モデルを取り扱う。具体的には多種入力・多種出力の5-10層の複合階層型ニューラルネットワークを構築し、その中にすべての入力と出力を統合する中間層(連合野層)を設定し、学習後にそこに形成される分散表現による概念の特徴を調べる予定である。
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