前年度、大学生の心理治療が行われている心理劇に赤外線カメラを導入し、被験者が心理的変化を生じた時には顔面からの放射熱量が著しく変化していることを確認した。人の顔面放射熱量の変化が循環系の機能変化を観測している可能性もあり、背筋運動時の顔面温度変化との比較を試みた。 男子学生延べ25人に対して、できる限り全力を出し、急速に背筋力計を引っ張り、そのまゝ10秒間力を維持し続ける運動を、2分毎に5回繰り返すよう求めた。 この結果、指示に対して忠実に、スタート時から全力を出そうと努力する被験者においては、運動開始直前に顔面温度上昇が観測された。運動開始約10秒前に背筋力計を手に持ち、足の位置を決めて運動準備状態となり、運動開始約5秒前には顔面温度が急に上昇し、被験者の示し得る最高温度に到達する。この時点で心拍数・呼吸数に変化はない。運動開始と共に顔面温度は急速に低下し、やゝ遅れて心拍数・呼吸数が上昇する。 背筋運動時、被験者は急速に引張ることによって、背筋や上腕筋等に傷害を生じるのではないかと不安を持ち、運動開始前に運動の進め方などについてイメージしている。この運動開始前の顔面温度上昇は循環系の高進に依るものではなく、被験者の運動準備状態の精神的変化を示していると推測される。この現象は心理治療で観られた顔面温度上昇に大変良く似ており、運動負荷による顔面温度上昇とメカニズムは異なると思われる。 現在、ラットの神経節の放射熱量変化を観察している。これらの結果は近い内に論文にできると考えている。
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