ある領域での新しい事実を学習する際に、その領域の内容的知識の高い人がどのように既有知識を柔軟に利用しているかを明らかにするために野球を材料として野球の知識のある大学生を被験者とした2つの実験を行った。第1の実験では、知っている選手についてはその選手についての情報が使用され、知らない選手については記憶術的方略に頼るという昨年度の実験の言語報告の分析に基づく結果を確認した。良く知っている選手からなるリストA、あまり知らない選手の多いリストBを作成した。両リストの述部は共通、主部と述部の対は全ての選手のことを良く知っている人にとっては同じ程度に「おこりそうな」ものとした。 リストAの学習成績はリストBの成績より高かった。リストAの成績と野球の知識との相関は有意だが、記憶術的技能との相関は有意ではなかった。リストBの成績と野球の知識との相関は有意ではなく、記憶術的技能との相関は有意であった。第2の実験では、特定されない主体(「パの外人打者が」など)に対して具体的に選手を当てはめて覚えるという形で野球の知識が利用されていることを明らかにした。特定されない主体が野球に関連した行動をしたという文の述部(行動)を覚えるという課題を用意した。主体の記述にあったその行動をしそうな選手を当てはめた場合、主体の記述とはずれているが、その行動をしそうな選手を当てはめた場合、個人を当てはめたわけではないが、そういう場面を思い出したと報告された場合には、そうではない場合より学習成績が高かった。主体の記述とはずれているが、その行動をしそうな選手(例えば、別なリーグの選手や現役を引退した選手)を当てはめるという柔軟性は記憶術的技能の高い被験者に見られた。
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