ある領域での新しい事実を学習するさいに、その領域の内容的知識の高い人が新しく学習した事実を利用しているかどうかを明らかにするために、野球を材料として野球の知識の高い大学生(BK群)の学習成績を、野球の知識はないが記憶術的技能が高い大学生(MS群)の学習成績と比較した。野球の知識の高い被験者が良く知っていると思われる15人の野球選手について、おこりそうな試合中の行動を3個ずつ用意した。これを使って選手名を主語とし、行動を述部とする文のリストを2種類作成した。3種類のリストについて学習-マッチングテストを繰り返した後、全リストを対象として自由再生および遅延マッチングテストを行なった。その結果次の点が明らかになった。1)BK群ではリスト1で85%の被験者が満点を取った(平均14点)。学習-テストを重ねると量はごくわずかであるが、成績が低下する。リスト1と3を比較すると40%の被験者が低下(平均点で1点)を示した。2)MS群ではリスト1の成績は平均9点で、BK群よりずっと低いが、リスト3では79%の被験者が上昇を示し、12点となりBK群と有意差はなくなった。MS群では学習を重ねると、「覚え方のこつがわかり、やさしくなる」との言語報告が得られている。3)遅延テストではリスト3の歩留り率がもっとも高いことが、どちらの群でも見られた(新近性効果)。4)自由再生についてはBK群では「同一選手の行動が連続して再生される」という結果を予想したが、この点について群差は見られなかった。これらおよび査問の結果からBK群ではそれぞれのリストを覚える時には選手についての知識を利用しているが、リストの内容を関連づけて利用してはいないらしいとみなされた。
|