前年度までの研究によって、日常場面において生起する感情過程を認知と行為決定のための過程と関連づけ、統合的なモデルを作成するための実験的な知見を得ることができた.本年度は、日常認知における感情、認知、行為決定の統合的計算モデルを構築することを試みた.全体的な枠組みは協調的問題解決機構を採用し、知識の構造化と推論機構は、事例ベース推論のパラダイムを用いている.実験的知見との対応を以下のような側面でとった. 1)日常感情に関連する認知と行為決定の性質について:感情表現語を手がかり刺激とし、被験者の自叙伝的記憶の中から該当するエピソードを検索し、そのエピソードを構成する認知と行為決定の構造を尺度上の評定で記述するという実験によって、感情を中心としたエピソード記憶の構造について、認知、行為それぞれ9ないし11の次元で記述できることが確認できた.この次元を計算モデルに採用した. 2)見込み推論と感情:未来の事象についてどのような予測をたてるかということと、その予測が結果としてどのような感情体験をもたらすか、を確認する実験によって、推論および推論が基づく知識と感情との関連に関する体系的な規則の系を導くことができた。この規則性を計算モデルに実動化した. また新しい試みとして、美的感情と関連をもつ感性喚起過程との計算モデル上での対応づけも試みた.感情と認知から、創造性へと延長する推論システムについて示唆が得られた.
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