本年度は、研究計画と目的のうち、「専門家の定性的判断に基づくセキュリティ評価」と「セキュリティの観点からの社会システムの安全性評価」について主に考察した。特に防犯監視システムを評価対象として、その運用と設計にこれらの安全性評価を適用してその有効性について検討した。まず、セキュリティの安全性評価法として、セキュリティ機能故障による損失(リスク)を、専門家の各損失の一対比較の形で定性的に評価することにより、防犯監視システムの安全性指標を導いた。さらに、この評価値に基づく防犯監視システムの設計や運用への適用により、提案するセキュリティ評価法の有効性について考察した。以下のような成果が得られた。 防犯監視システムの主目的は、システムに無許可で侵入したり、損害を生じるような外敵の検出と同定である。外敵の同定は無許可者と許可者の識別であり、システム設計ですべての許可者の識別可能性が保証されなければいけない。しかし、識別対象範囲の拡大により許可者に関する情報量が膨大になり検索や判断に時間を要するので、識別可能性を保証しながらデータ項目数の最小化を図ることが重要である。一方、データ項目の削減は誤ったデータに対する識別能力の低下につながる。そこで、設計でのデータ項目の最適な選択法として、システム機能故障である検出誤りによるリスクを最大にする監視システムのデータ項目の最小組み合わせの選択法を導出した。また、運用では、防犯監視システムの信頼性維持に必要な点検や保全の周期を最適決定する方法として、機能故障である検知ミスによるリスクとシステム停止によるリスクの相対的評価に基づく決定法を導出した。提案する安全性評価では、リスクに対する専門家の意見を相対的評価の形で抽出することにより情報がより簡単に得られ、また評価者の意向が安全性評価により柔軟に反映できることを示した。
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