テトラサイクリン耐性菌は1950年代から知られていたが、その耐性機構は長い間謎であった。ようやく1980年にS.B.Levyらが、薬剤の菌体外への能動的排出によるものであることを証明した。その後、1990年前後になって、テトラサイクリン以外の抗生物質にも続々と排出系が発見されるようになった。私達は、テトラサイクリン排出系の厳密な生化学的研究を初めて行い、1980年代末に、テトラサイクリン-2価カチオンキレート体とプロトンの1:1の逆輸送系であることを証明した。 今回、遺伝子工学的手法を用い、テトラサイクリン排出系の部位特異変異導入を行い、機能に必須な残基を同定し、その役割の解明を行った。近年の遺伝子工学の最も大きな進歩の一つは、合成DNAを用いた遺伝子改変である。これは、将来的に全く新しい蛋白質をデザインする道を開くものである。しかし、それに至るには、アミノ酸配列から蛋白質の機能がいかにして決定されているのかという、いわばアミノ酸配列の文法を解明する必要がある。今回の私達の研究は、膜輸送蛋白質の文法を解明する上で重要な一般的規則のいくつかを明らかにした。(1)テトラサイクリン排出蛋白の膜貫通領域には3個の産生残基と1個の塩基性残基があるが、これらは全て蛋白の構造または機能に必須であった。一方、親水性領域の8個の保存性産生残基の中では唯一個のみが必須であり、9個の保存性塩基性残基の中では1個が機能に、他の1個が膜への組み込みに必須であった。このことは、膜内と表面での荷電残基の役割に大きな違いのあることを示している。(2)膜貫通領域では機能残基はヘリックスの一側面に縦一列に配列していた。これは膜貫通チャンネルの存在を示している。(3)親水性表面にゲートと考えられるほぞんせいループが存在した。これらの知見から、私達は膜輸送のゲートチャンネルモデルを提唱した。
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