研究概要 |
筋肉に発現されるN-CAMsに対する部位特異的抗体を作製し、発生段階に応じてどの様に変化しているかイミュノブロット法により調べた。155kDaのものは抗体との反応性から細胞質ドメインを有しかつMSD(筋肉特異的領域)も併せ持つtypeであった。これは、発生の初期では検出限界以下で5日齢の胚から現れ、筋芽細胞が融合して筋管細胞が盛んに形成される11日目から14日目にかけてピークとなり、孵化直前の18日胚では再びもとの検出限界にまで減少するstage-specificな一過性の発現をするものであるとわかった。また、145kDaにはcytoplasmic tailがありMSDはないので神経のN-CAMと構成がよく似ていると考えられた。この神経型のN-CAMは発生初期5日目にはすでに強く発現しており胚発生の進行と共に漸減する傾向が見られた。一方、120kDa typeは、cytoplasmic tailはなくそのかわりにPI-PLCによって細胞から遊離してくることからPIによって細胞膜にanchorされていると思われる。この型のN-CAMは発生初期にはMSDをもたないが発生の進行と共にMSDをもつものに置き変わり、筋管形成の一番盛んな時期になると完全にMSDtypeとなることがわかった。以上の結果から、筋肉のN-CAMに特異的にみられるMSDは筋芽細胞が融合して筋管細胞を形成する過程で必要とされる因子と思われた。 次に、brefeldinA(BFA)により細胞膜表面への物資の供給を遮断することによって、筋肉分化への影響を調べた。その結果、筋芽細胞同士の融合が完全に抑えられるばかりでなく、筋肉分化に伴うcreatine kinase,myogenin,myoDの発現誘導と増加もBFA処理によりmRNAレベルで抑制を受けていることが分かった。その影響は分解によるものでなく転写活性の低下によるものであることも判明した。このことは、筋肉の分化は自律的に行われるものでなく、細胞表面に提示される分子を介したシグナルの授受が必要であることを示唆している。
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