研究概要 |
今年度は、配偶行動の遺伝学的解析をすすめる第一段階として、P因子挿入系統の作出と,行動観察による変異体の分離を行った。mutatorとしてP〔mw^+〕を用いて約700系統、P〔lwB〕を用いて約1000系統を作出し、前者についてはその全て、後者については半数の行動スクリ-ニングを完了した。その結果、配偶行動異常突然変異体として次の2系統を分離した。 242401;この系統は、交尾成功率が極端に低い変異体として分離された。1時間以内の交尾率は野生型では約70%であったが、242401ではわずか9%であった。類似の表現型を示すspinster(佐野弓子他、1991)と242401変異をヘテロにもつ個体を作出したところ、その交尾成功率は75%であった。すなわち両者の表現型は類似しているが、その変異は互いに相補的であるので、両者は異なったアレルと考えられる。 376300:この系統は、交尾成功率0%の突然変異体として分離された。その原因が雌雄いずれにあるのかを明らかにするため、野生型の雌雄とペアにしたところ、376300系統の雌は野生型の雄と交尾したが、376300の雄は野生型の雌に対して全く求愛せず、したがって交尾もしなかった。ところがこの系統の雄は他の雄に対して求愛行動をとり、性的定位に異常を来たした同性愛変異であることが分かった。 376300系統について、Xーgal法を用いてレポ-タ-遺伝子lacZの発現を組織化学的に調べたところ、脳の特定の細胞群に発現が見られた。しかし、他の組織・器官でも発現が認められたので、今のところ、発現の見られた神経細胞群と同性愛行動とを直接関連付ける訳には行かない。また、P〔lWB〕内のBluescript配列をプロ-ブとして唾腺染色体へのin situ hybridizationを行い、P因子挿入点を染色体上で特定した。
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