研究概要 |
Na,K-ATPaseは細胞内環境維持のためのイオンポンプとして必要不可欠の細胞膜酵素であり,catalytic subunitでウワバイン結合部位を持つα-subunit(分子量約10万)と糖蛋白質であるβ-subunit(分子量約5.5万)より成る。β-subunitの機能は未だはっきりしないが,Na,K-ATPaseの活性発現には必須であり,小胞体におけるα-subunitの機能発現のための成熟過程および細胞膜への輸送に関与していると考えられている。我々は神経成長因子(nerve growth factor,NGF)を添加した際におけるPC12細胞のNa,K-ATPase活性上昇機構について検討を行い,β-subunitがこの活性上昇にかかわっている可能性を示す結果を得た。PC12細胞はラット褐色細胞腫に由来する細胞で,NGFにより形態的にまた生化学および生理学的にも神経細胞様の形質を発現する。NGFを添加後6日目でPC12細胞のNa,K-ATPase活性は約2倍に上昇した。NGF添加後約10日まで,α-およびβ-subunitの存在量はともに経時的に増加し,コントロールと比べてαは約2.5倍,βは約6倍になり,αに対するβの相対量(β/α)は添加後6日目で非添加時の2倍になった。[^<35>S]メチオニンのパルスラベルによる単位時間あたりの蛋白合成量のαとβのモル比(β/α)は0.5(コントロール)から1.0(NGF添加)に増加した。これはNGF非存在下ではα1分子につきβ0.5分子で生合成が行われ、α過剰の状態であり,NGF存在下で培養するとαとβが1:1で合成されることを意味する。これらの結果はNGFによるNa,K-ATPaseの活性上昇機構にβ-subunitが重要な役割を果たしていることを示唆している。
|