研究概要 |
Na,K-ATPaseは細胞内Na^+およびK^+の環境維持に必要な細胞膜蛋白質であり、α-subunitとβ-subunitで構成され、その構成比は1:1である。αーsubunitは分子量約10万で、ウワバイン結合領域とATPase活性領域を持つ。βーsubunitは分子量約5.5万の糖蛋白質で機能は未だ明確ではないがNa,K-ATPaseの活性発現に必須であり、小胞体上でのα-subunitの成熟過程と細胞膜への輸送に関与していると考えられつつある。またNa,K-ATPaseは細胞膜上で極性を持って発現されることが知られており、この点についてもβ-subunitがかかわっている可能性が考えられる。このような状況を踏まえ,以下の研究を行った。(1)PC12細胞を用いてNa,K-ATPaseβ-subunitの機能を検討した。PC12細胞は神経成長因子(nerve growth factor,NGF)によって神経細胞様の形質を発現することが知られている。NGFを添加後PC12細胞のNa,K-ATPase活性は約2倍に上昇した。また,添加後PC12細胞のNa,K-ATPase活性は約2倍に上昇した。また添加後α-およびβ-subunitの存在量はともに経時的に増加したがβの増加量が大きく,αに対するβの相対量(β/α)は非添加時の2倍になった。[^<35>S]メチオニンを用いたパルスラベルの実験より,NGF非存在下ではα1分子につきβ0.5分子で生合成が行われ、NGF存在下で培養するとαとβが1:1で合成されることが分った。これらの結果はNGFによるNa,K-ATPaseの活性上昇機構にβ-subunitが重要な役割を果たしていることを示唆している。(2)Na,K-ATPaseの極性を伴った細胞膜上の局在様式を、涙腺、前庭器、腎臓について定量的免疫電子顕微鏡法を用いて解析し、その局在様式の特徴と機能的意義について考察した。(3)ラット胃H,K-ATPaseβ-subunitおよびラット大腸H、K-ATPaseα-subunitのアミノ酸配列を基にして合成ペプチドを調製し、家兎に免疫した。ELISA法で検定したところ力価の高い抗体が得られた。
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