ペルム紀-三畳紀境界(P-T境界、約2億5千万年前)は、大規模な生物絶滅の時期として知られている。本研究では、P-T境界に海底で堆積したチャートに対して、レニウム-オスミウム(Re-Os)同位体系を適用し、P-T境界における海洋環境の全地球規模変動に関する研究を行った。研究実績の概要は次のとおりである。 西南日本外帯(秩父帯南帯)と西南日本内帯(美濃帯)のチャートについて分析を行なった。ペルム紀と三畳紀の双方の時代の試料が採取できた秩父帯南帯については、^<187>Os/^<188>Os比は下部ペルム紀の約2億7千万年前から、当時の定常的な海水の^<187>Os/^<188>Os比0.4-0.6よりも低い0.1-0.3の値に下がり、この低い値がP-T境界において、さらには下部三畳紀の約2億4千万年前においても継続している。一方、秩父帯南帯のチャートのOs濃度は、ペルム紀においては数10pptであるが、P-T境界の試料において数100-1000ppt程度に急増し、三畳紀においては数10-600ppt程度である。美濃帯の三畳紀チャートの^<187>Os/^<188>Os比は0.3-0.5と、秩父帯南帯チャートよりは高い値を示している。 以上の結果から次の点が指摘される。 1.Os同位体比が下部ペルム紀の時代においてすでに低いことから、P-T境界における環境変動の要因として、隕石衝突説よりも大規模火成活動説の方が妥当と考えられる。 2.美濃帯の三畳紀チャートのOs同位体比は、秩父帯南帯チャートよりも高く、大陸起源物質の寄与は、美濃帯チャートにおいて高いと考えられる。
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