アルツハイマー病の神経原線維変化の主要構成成分として異常リン酸化タウ蛋白があり、これはリン酸化にともなって神経細胞内に異常に蓄積させることが知られている。リチウムはグリコーゲンシンターゼキナーゼ3(GSK3)を抑制して、このタウ蛋白のいくつかの部位を脱リン酸化するが、リチウムによって逆にリン酸化が誘導される部位(Ser214)が存在することを発見した。 さらに、2種のキナーゼPKAおよびPKBによりin vitroにてリン酸化されたタウ蛋白とリン酸化していないタウ蛋白にリコンビナント14-3-3蛋白を添加し抗14-3-3蛋白抗体にて免疫沈降したものでは、キナーゼによるリン酸化後の沈降物のタウ蛋白量が増加し、リン酸化によってタウ蛋白と14-3-3蛋白との結合が増加することが判明した。アミノ酸変異を導入したリコンビナント蛋白Tau-S214Aおよび野生型Tau-wtをキナーゼによるリン酸化をおこなって結合を調べると、Tau-wtのみに14-3-3蛋白との結合が増加した。これに、リチウム添加後の細胞内タウ蛋白と14-3-3蛋白との結合を検討すると、Tau-wtのみにリチウム添加後の沈降物のタウ蛋白量が増加し、細胞内タウ蛋白と14-3-3蛋白との結合がSer214部位のリン酸化に特異的に増加すること示唆された。 これらのことから、タウ蛋白のSer214部位のリン酸化は14-3-3蛋白との結合を介して、タウ蛋白の局在や機能、さらにはタウ蛋白の自己重合による蓄積を抑制する可能性、およびアルツハイマー病における神経細胞死を抑制する可能性が示唆された。
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