研究課題
光線力学療法(PDT)は、体内に投与された光増感剤を外部からの光照射により活性化し、産生された一重項酸素による酸化反応を利用して患部を選択的に破壊する治療法であり、がんおよび加齢黄班変性などの治療に臨床応用されている。このPDTの有効性と安全性を高めるために、光増感剤のドラッグデリバリーシステム(DDS)の開発が注目されているが、従来の技術では、凝集性の高い光増感剤の濃度消光による一重項酸素の産生効率の減少を抑制することが困難であった。そこで本研究では、このような光増感剤の凝集を抑制することを目的として、ポルフィリンを中心分子とした世代数の異なる樹状高分子(デンドリマー)型光増感剤(DP)を合成し、DPと反対電荷を有するブロック共重合体と混合することにより、DPを内包する高分子ミセル型DDSを開発した。第1世代および第2世代のDPの場合、DPとブロック共重合体の混合により大きな凝集体が形成され、それに伴い酸素消費効率が減少することが確認された。対照的に、第3世代のDPの場合には、粒径が約70nmの高分子ミセルが形成され、内核に約50個のDPを有するにも拘わらず、酸素消費効率が全く減少しないことが確認された。このようなDP内包高分子ミセルを細胞に作用させたところ、DPの世代の増加に伴い、DP内包高分子ミセルの光細胞毒性が顕著に増加し、第3世代のDPを内包した高分子ミセルは、DP単独の300倍の光細胞毒性を示すことが明らかとなった。この効果は、ミセル化によるDPの取り込み量の増加では説明することができず、DPをナノキャリアに封入することにより、PDTの効果が著しく増強されるという新しい発見である。第3世代のDPを内包した高分子ミセルは、現在、加齢黄班変性のPDTの目的において、動物実験を進めており、優れた治療効果を確認している。このように、本システムは、PDTのための新しいナノDDS戦略として今後の展開が期待される。
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Journal of Controlled Release (印刷中)
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