世界の温暖地域で人の活動とともに分布を拡大し、地域生物相に破壊的なダメージを与えつつある、放浪種と呼ばれる一群のアリがおり、亜熱帯の沖縄には既に20種以上が侵入している。本研究の目的は、放浪種の分布拡大と侵入地域における優先性の機構を、沖縄のフィールドにおいて明らかにすることである。研究開始から2年目の本年度までに、以下の新事実が判明した。1.ツヤオオズアリは、他の侵略種の外国で報告される状況とは異なり、意外にも完全なunicolonialではなく、巣間の敵対性をある程度保持する事が判明した(成果は、Insectes Sociaux誌に投稿中)。アシナガキアリでも程度の差はあれ同様であった。この特徴が、侵入地よりも原産地での侵略種の生態に酷似していることは非常に興味深い。2.また、ツヤオオズアリやアシナガキアリは、沖縄では一部の地域では極めて優勢だが、在来のアリを地理的に広範囲にわたり排除することはなく共存する傾向がみられた。この特徴も原産地での侵略種の生態に酷似している。3.また、ツヤオオズアリに特異的に寄生するダニが発見された。この存在が本種が沖縄では優勢にならない原因の1つである可能性もある。4.これらの侵略種の自然林への侵入は、開通後長い時間の経過した林道の脇ではアシナガキアリに限って確認されたが、林内への侵入は一般に確認されなかった。しかし、この傾向を一般化するには長期的調査が必要である。5.林道脇では森林内部よりも、アリの種数個体数ともに増加していることが判明した。これは、撹乱依種が林道脇に侵入したとこと、林道上の野生動物のロードキルで餌供給が増えた事が原因である可能性が高く、単純に種数個数からは自然環境の保全度が測れないことが判明した。6.乾燥耐性および湿潤耐性などの各種間で比較と、DNAマーカーを使用した集団構造研究用は現在進行中あるいは準備中である。
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