研究概要 |
トウモロコシ幼葉鞘の光屈性分子の生合成経路について、化学物質及び酵素のレベルから調べた。トウモロコシ幼葉鞘の光屈性分子であるDIMBOAとその前駆物質DIMBOA glucosideの光屈性刺激に伴う光側・影側組織における分布変動をHPLCで調べた結果、DIMBOA glucosideが光屈性刺激開始後直ちに光側組織で減少し、DIMBOAが増量した。その後、DIMBOA glucoside量は回復し、DIMBOAは徐々に元のレベルまで減少した。一方、影側組織におけるこれらの物質の分布変動はほとんど見られなかった。次に、DIMBOA glucosideからのDIMBOA生成に関与すると考えられるβ-glucosidaseの活性を調べた。光屈性刺激開始後直ちに光側でβ-glucosidaseの活性が上昇することが明らかになり、分布変動実験の結果と完全に符号した。光屈性の開始時間と物質の活性の比較から、光屈性刺激によって光側組織でβ-glucodidaseの活性が高まり、それによって不活性型のDIMBOA glucosideから活性型のDIMBOAが生成されることで、光側の成長が抑制されて屈曲することが示唆された。β-glucosidaseの阻害剤(D-gluconic acid, d-lactone及び1-thio-D-glucose)の投与によって屈曲が低下したことからも、上述の考察が支持される。 光屈性を遺伝子レベルからも解析するために、ゲノム解析が終了しているシロイヌナズナの光屈性分子を探索した。光屈性を示さない突然変異株と野生株を用いて、光屈性刺激後経時的にそれぞれの下胚軸をサンプリングし、HPLCで物質量の変化を精査したところ、いくつかのピークが野生株で増量し、突然変異株では変わらないことが分かった。それらのピークの1つを単離・精製し、NMRスペクトル等からindole-3-acetonitrileであることを明らかにした。この物質はシロイヌナズナの下胚軸の成長を抑制することから、シロイヌナズナ下胚軸の光屈性に重要な役割を演じていることが示唆される。
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