前年度、シロイヌナズナ下胚軸の光屈性分子はindole-3-acetonitrile (IAN)であることを明らかにした。IAAへの変換触媒酵素であるnitrilase欠損突然変異株(nit1)は野生型と同様に光屈性を示したが、光屈性欠損突然変異株(nph3-101)におけるIANは増量しなかったため、光刺激により生じる偏差的成長抑制現象(光屈性)はIAN自身の活性であることが分かった。 前年度、トウモロコシ幼葉鞘の光屈性分子として単離・同定し、更にその生合成経路を明らかにしたDIMBOAが、IAA早期応答遺伝子であるSAUR遺伝子発現に及ぼす影響について、RT-PCR法を用いて調べた結果、DIMBOA処理後60分においてSAUR遺伝子発現が抑制された。光刺激により生じるSAUR遺伝子発現偏差は、これまで光照射に伴うIAAの横移動に起因するとされてきたが、本研究の結果は、IAAの横移動は起こらず、光側組織で成長抑制物質DIMBOAが増量し光側組織のSAUR遺伝子発現を抑制し、光屈性が起こることを強く示唆する。 次に、光屈性分子の挙動を遺伝子レベルから明らかにするために、ダイコン下胚軸の光屈性分子・MTBIに応答する遺伝子を探索した。Differential screening法を用いてMTBI処理により発現する75個のプラークを単離後、青色光を照射したダイコン下胚軸をサンプリングしてノーザンハイブリダイゼーションを行うことで、青色光により発現が誘導されるMTBI応答性遺伝子を同定中である。 その他、ヒマワリ下胚軸における光屈性分子を探索した結果、強い抑制活性を有する新規化合物を複数単離した。現在、MS、NMR等各種機器分析を用いて詳細な構造解析を行っている。また、光屈性分子のレセプター分子の探索や構造解析を行うため、アフィニティーカラムや蛍光ラベル体の作製等を行っている。
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