2003年9月3日-5日に開催された日本宗教学会第62回学術大会の第8部会において「谷本富の宗教と教育-「耶蘇教駁議」を中心に-」と題して発表を行った。当発表は明治・大正期の教育学者である谷本富の宗教教育に関する言説の変化を解明したものである。谷本富の宗教教育観はキリスト教への評価と密接な関係があることが「耶蘇教駁議」の分析により明らかにされた。また当論文では井上哲次郎によって引き起こされた「教育と宗教の衝突」議論に加わる形で発表された谷本の論文「耶蘇教騨議」を巡るキリスト教思想界の反応を比較した。この論文に反論を寄せた原田助と浅田栄次の議論は、本質的には谷本の参考とした高等批評と同じ立場に立ち、高等批評を擁護しつつあわせてキリスト教界を擁護しようとする教会御用論へと陥る傾向があった。それに対し大西祝が井上哲次郎との論争を経て批評理論を形成していく過程が明らかになった。なお当発表をまとめた論文の発表を計画中である。 また2004年4月に発行される『宗教学・比較思想学』に論文「明治時代の知識人とエスペラント-一枚の写真に残された思想家たちの残像」を発表予定である。この論文はエスペラント学校経営に参加した大杉栄と浅田栄次の思想的交流と比較をなしたものである。浅田栄次の資料から新たに発見された大杉栄の手紙から、エスペラント運動とアナーキズム運動との思想的親近性が明らかにされた。エスペラニント運動を単なる語学運動と見るのではなく、思想運動としてみたときに大杉栄と浅田栄治がキリスト教に失望した後にコスモポリタニズムの実現として選んだのがエスペラントに内在された言語による世界平和の理念であった。しかし、日本のエスペラント運動は日露戦争後の帝国主義を補完する役割をも背負わされていたことが両者の比較により明らかとなった。
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