近年、ミトコンドリアDNA(mtDNA)突然変異がミトコンドリア病と総称される疾患の原因となっているだけでなく、糖尿病やパーキンソン病、老化といった疾患や現象にも関与しているという報告がなされている。しかしmtDNA突然変異と疾患との直接の因果関係については不明瞭な点が多く、その理解のためにはモデル動物を使用した個体レベルでの観察が必要である。本年度は以下の2点の研究を行った。 1)マウス個体レベルでのmtDNAの組換え 異なる種に属するマウスのmtDNAを混在させたマウスを作製することで、これまでその存在について議論が交わされてきたmtDNAにおける組換えの明確な証拠を得た。また、この発見により、変異型mtDNAによる病態発症抑制機構であるミトコンドリア間での物質交換がmtDNAレベルで行われていることがより確かなものとなった。 2)mtDNA突然変異マウスにおける新たな病体の発見 病原性欠失突然変異型mtDNAを持つヒトミトコンドリア病モデルマウスであるMito-Miceにおいて、新たな病体である難聴症状を確認した。しかし、ヒトミトコンドリア病において難聴と併発することが報告されている糖尿病の症状をこのMito-Miceは示しておらず、むしろ低血糖を示していた。この観察結果は病原性欠失突然変異型mtDNAによる酸化的リン酸化の機能不全を補うために、解糖系によるエネルギー産生を促進させていることによるものと考えられる。
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