本年度は、共生者の宿主特異性に影響を与えるであろう、宿主の生活史や生態的違いを明らかにすることを目的として、瀬戸内海海域および太平洋海域に分布するアナジャコ科甲殻類5種、Upogebia major、U.yokoyai、U.issaeffi、U.pugnaxおよびAustinogebia narutensisの採集を行った。その結果、瀬戸内海では、4種のアナジャコが分布し、U.majorは内湾の泥質干潟、U.yokoyaiは河口域の泥質干潟、U.issaeffiは転石干潟、A.narutensisは主に潮下帯に分布するという、分布特性が異なることが明らかになった。U.pugnaxは太平洋沿岸にのみ分布し、しばしばU.yokoyaiと同所的に分布した。瀬戸内海海域に分布する4種について、巣穴構造を調査した結果、どれもU字の下部からI字が伸びる、総じてY字状の巣穴であるが、U字部の形状や、I字部の長さ、また分岐構造の複雑性などで、4種の巣穴構造が異なることが明らかになった。これらの分布特性と巣穴構造の違いは、共生者の宿主特異性を説明する要因になりうる。また、3種の宿主の繁殖時期が特定された。U.majorは冬季、U.yokoyaiは初夏、U.issaeffiは秋季であり、この結果は、宿主が着定期幼生である時期に共生を開始するエビヤドリムシ科等脚類の宿主特異性に影響があるものと考えられる。 また、これまで多数の個体を採集することが困難であったA.narutensisが潮間帯の砂質に分布する干潟を愛媛県東部で発見し、本種に寄生するエビヤドリムシ科等脚類Pseudioninae sp.1を採集した。このエビヤドリムシ類はこれまで採集例が少なく、2地点で2種の宿主から得られていたが、この結果から本種が、採集例が少ないために宿主特異性が高く評価されてしまう種の好例であると考えられた。今後も、これまで採集個体数が少ない宿主を重点的に採集し、その共生者相を明らかにする作業が必要である。その他、アナジャコ類からは5種のエビヤドリムシ類未記載種が得られており、記載の準備を進めている。
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