本研究では、バクテリアのべん毛モーター1個の力学特性を計測することを目的としている。今年度、(1)計測に最適化した菌体の作成、(2)作成した菌体を用いて1回転中の素過程の観察、の2点について研究を行った。 (1)計測に最適化した菌体の作成 最近、大腸菌内でナトリウム駆動型として機能するキメラモーターが報告された(浅井ら2003)。これまで、多くの構造学的、遺伝学的解析は大腸菌で行われているが、プロトン駆動型のモーターであるので、ナトリウム駆動型モーターに比べて回転の制御が難しく、回転中の素過程の検出には成功していない。キメラモーターを用いれば、大腸菌で得られた多くの情報を利用しながら、ナトリウム駆動型モーターの解析が行える。今回、大腸菌由来のモーターの遺伝的な破壊や、ビーズをべん毛モーターに結合するための特殊なべん毛も発現を行うように大腸菌を改変し、キメラモーターも薬剤によって発現を調節できるようにすることで、ビーズを用いた回転計測に最適化した菌体を作成した。 (2)1回転中の素過程の観察 作成した菌体において、モーターの発現量を減らすことで、平均的に1個のモーターが相互作用する条件を決定した。この条件下で、ナトリウム濃度を非常に低くすると、回転速度が数Hzとなり、計測システムとしては1回転中の素過程を十分検出することが可能になった。その結果、プレリミナリーではあるが、ステップ状の回転を検出することができた。現在、ステップ角度の解析、よりクリアにステップを検出できる条件の探索を行っている。
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