本研究では、イオンの流れを回転運動に変換する分子機械であるバクテリアのべん毛モーター1個の力学特性を計測し、回転メカニズム解明の糸口をつかむことを目的としている。モーターの大きさは50nm程度であり、その動きを観察するためにポリスチレンのビーズを目印として用いる計測系を本研究では採用している。昨年度作成したビーズを用いた回転計測に最適化した菌体を用いて1回転中の素過程の観察およびその結果の解析を行った。 作成した菌体において、モーターの発現量を減らすことで、平均的に1個のモーターが相互作用する条件を作り出した。この条件下で、ナトリウム濃度を非常に低くすると、回転速度が数Hz程度とすることができ、計測システムとしては1回転中の素過程を十分検出することが可能になった。その結果、これまで滑らかな回転しか観察されてなかったべん毛モーターにステップ状の回転を検出することに成功した。このステップの大きさおよび周期性の解析を行ったところ、約14°を基本単位としていることが明らかになり、1回転中に26個のステップの素過程を持つことがわかった。この数はモーターがトルクを発生するのに重要であるFliGというタンパク質が26個重合したリング状構造をとることに由来していると考えている。これまで、ATPをエネルギー源とした分子モーターの研究で、ステップ状の変位を観察された例はあるが、イオン駆動のモーターで確認されたのは本研究においてが初めてであり、この成果を現在投稿中である。
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