本研究は、線虫をモデル動物として、個体レベルでのストレス応答におけるp38(PMK-1)MAPキナーゼカスケードの機能について解析を行っている。これまでに、アルセナイト(ヒ素)ストレスによってPMK-1 MAPキナーゼが活性化することが明らかとした。さらに、PMK-1 MAPキナーゼカスケードを構成する遺伝子の機能喪失型変異体を用いた解析から、その活性化はアルセナイトストレスに対する線虫個体の生存にとって重要な役割を果たしていることを明らかにした。平成15年度は、アルセナイトストレス応答においてPMK-1 MAPキナーゼカスケード下流で機能する因子について解析を進めた。その結果、PMK-1 MAPキナーゼカスケードは、phase II解毒遺伝子のひとつとして知られるgcsの線虫ホモログ、gcs-1遺伝子の転写誘導を制御することを明らかにした。さらに、PMK-1 MAPキナーゼカスケードはgcs-1の転写を直接制御することが知られている転写因子、SKN-1の核局在に関与していることを示した。SKN-1を基質としたin vitroキナーゼアッセイを行った結果から、PMK-1は直接SKN-1をリン酸化することを明らかにした。さらにin vitroの解析からPMK-1によるSKN-1のリン酸化部位を決定した。PMK-1によってリン酸化を受けない、リン酸化部位アミノ酸置換型SKN-1遺伝子を線虫に導入したところ、アミノ酸置換型SKN-1は核局在をほとんど示さなかった。これらの結果から、個体レベルのアルセナイトストレス応答においてPMK-1 MAPキナーゼカスケードがSKN-1の核局在を制御していることが明らかとなった。以上の成果は、平成15年度中にロサンゼルスで開催された国際線虫学会、および神戸で開催された第26回日本分子生物学会にて口頭発表した。
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