RNAエディティングとは、ゲノムDNAの塩基配列が転写された後RNA上で変わる現象のことで、高等植物の葉緑体ではシチジン残基(C)からウリジン残基(U)への変換が知られている。タバコの葉緑体ゲノムには約110種の遺伝子が存在し、現在までに34カ所のエディティング部位がタンパク質をコードしている領域で見い出されている。しかし、それぞれのエディティング部位周辺に共通の配列や構造が見られないことから、34カ所ものCがどのようにして認識されているのかが大きな謎となっている。そこで本研究ではタバコ葉緑体抽出液を用いたin vitro RNAエディティング系により、葉緑体遺伝子psbEとpetBをモデルとし、エディティング部位認識機構の解析を行っている。 本年度は、前年度までに明らかにしたpsbE mRNAのエディティング反応に関わっている56kDaのタンパク質(p56)の同定を試みた。このタンパク質はエディティング部位上流のシス配列だけではなく、エディティング部位とも直接結合していることを既に明らかにしており、エディティング反応そのものを行っている可能性のある、非常に特異なものである。方法としては、まずタバコ葉緑体抽出液を作製し、それを硫安分画、ヘパリンアフィニティークロマトグラフィー、RNAアフィニティークロマトグラフィーによりp56を精製した。精製タンパク質をMS/MSにより解析した結果、数本のアミノ酸配列が得られた。その配列を基にシロイヌナズナからp56の相同遺伝子の同定を試みたが、候補を絞りきれず、うまくいかなかった。原因としては、得られた配列が短すぎたこと、タバコとシロイヌナズナで予想以上に目的の遺伝子の配列が異なっていることが考えられる。遺伝子の同定には失敗したが、精製過程で数多くのp56に関する生化学的知見が得られたので、今後の研究に役立てるものと期待している。
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