シアル酸の一分子種KDNの哺乳動物細胞における代謝及びその制御機構を調べるために以下の実験を行い以下の結果を得た。 (1)細胞外からの取り込み機構 KDNを哺乳動物細胞の培養培地に添加するとその量および時間に依存して細胞内のKDN量が増加した。この増加は、シアル酸Neu5Acとは競合しない経路であった。またエンドサイトーシス阻害剤の添加ではまったく取り込みの阻害はかからなかった。 (2)細胞内のKDNの局在 シアル酸は細胞質で作られた後、核内で活性化糖であるCMP化物になり、ゴルジ体に運ばれ糖鎖に付加される。哺乳動物細胞においてKDNは通常時非常に微量であるが前駆糖のマンノース、またはKDNを培地に添加することで増加する。しかし、糖鎖上のKDNの増加は極微量であり糖鎖生合成のいずれかの段階で制御されていることが考えられる。増加したKDN単糖の存在場所および形態(KDN or CMP-KDN)の解析を行った。細胞を核、ミトコンドリア・リソソーム、細胞質に分画し、各画分のKDN量およびどの形であるかを調べた。増加したKDNはほぼ細胞質内にたまっており、核内にははいっていなかった。対して通常のシアル酸Keu5Acはほとんどが核内に存在しており、シアル酸のような低分子でありながら選択的な核-細胞質間輸送が行われていることが示唆された。またKDNはすべてCMP化物ではなくKDNとして存在しており、核内に入ることが出来ず、活性化糖になれないことが糖鎖上に付加されない要因のひとつであることが示唆された。 (3)シアル酸9リン酸合成酵素の発現抑制 KDNの生合成の初期にシアル酸9リン酸合成酵素が関与していると考えられてきた。そこでこの酵素をsiRNAを用いて発現を抑え、KDN量への影響を調べた。しかし活性は抑えられたがKDNの増加にはほとんど影響がなかった。現在、異なる経路による合成、およびシアル酸の生合成を抑えた影響を解析中である。
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