伝承文学研究会・平成15年度大会(2003.9)にて「東大寺創建をめぐる諸伝承」と題して口頭発表を行った。これは、以前発表した「『長谷寺縁起文』に見る<東大寺>-役行者・法起菩薩同体説と伊勢参宮説-」(『説話文学研究』34/1999.5)を相対化するための目論見であり、長谷寺サイドで受容された東大寺四聖本地説が東大寺の真言教学の勃興・展開の中で成立してゆく様相を解き明かすものである。『伝承文学研究』54(2004.5)に東大寺四聖本地説の成立」と題して掲載予定。 『国文学解釈と教材の研究』48-11(2003.9)に「寺院ネットワークと伝承-興福寺と長谷寺-」を発表。『長谷寺密奏記』の伝本のうち、興福寺と関わる奥書を有する二本を採り上げ、長谷寺別当を兼帯した興福寺大乗院門跡が接することのできた長谷寺をめぐる伝承世界の一端を論じた。真言密教圏のみならず、南都仏教圏との関わりについて考察するための一助でもある。 『古典遺産』53(2003.9)では「宝珠をめぐる秘説の顕現-随心院蔵『宀一山秘記』の紹介によせて-」として、今までの研究で重視してきた真言密教・両部神道系のテクスト『宀一山秘密記』を最古伝本である随心院蔵『宀一山秘記』によって紹介した。併せて「随心院蔵『宀一山龍穴秘記』と安禅寺旧蔵聖教群」(『随心院聖教と寺院ネットワーク』1/2004.3)で、同じく随心院に蔵される『宀一山秘密記』の特異な伝本である『宀一山龍穴秘記』を紹介するとともに、本書を含む安禅寺旧蔵聖教群の存在を指摘した。 また、現段階では未完成であるが、『長谷寺験記』の成立年代を論ずる際に重要である散佚書『行仁上人記』や、『長谷寺縁起文』『長谷寺験記』に引用される「流記」についての論も準備中である。 このほか、随心院をはじめとして各地の文庫・図書館等で東大寺・華厳教・長谷寺・真言密教・両部神道関係の資料を蒐集・整理し、かつ、データベース化の作業を行っている。またその一方で、博士論文を基にした研究書の出版準備も進めている。
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