研究概要 |
環状暗視野走査透過電子顕微鏡(HAADF STEM)法を用いて青色レーザの素子として注目を浴びている多層量子井戸(MQW)構造のInGaN/GaNを観察し,原子分解能での構造解析を行った.まず,高分解能HAADF STEM像は明るいコントラストが原子位置に対応し,その強度は原子番号に依存することを利用して構造と組成の同時測定を試みた.実験で得られたHAADF STEM像はレンズとノイズの効果を含んでいるため,原画像からは厳密な原子位置を知ることが難しい.そこでdeconvolution処理を用いてそれらの効果を取り除くことにより,正確な原子位置を得ることができた.ここで得られた原子位置を用いてInGaN層内での歪みを測定し,またコントラストから測定されたIn濃度と比較した結果,In濃度の高い領域で成長方向にのみ歪みが生じていることが分かった.これによりInGaN層内での歪みとIn濃度の関係を明らかにすることができた. またこのMQW InGaN/GaNには貫通転位が多く含まれ,この貫通転位がInGaN層に到達したところでinverted hexagonal pyramid(IHP)と呼ばれる格子欠陥が生じることが知られている.そこでこの貫通転位とIHPをHAADF STEM法を用いて観察した.その結果,IHPの発生には従来言われていた貫通転位から発生しているものの他に,InGaN層でコントラストの高い領域からも発生していることが分かった.HAADF STEM像の特徴から,コントラストの高い領域はIn濃度の高い領域と見ることができるため,In濃度の高い領域からもIHPは発生することがあることが分かった.また,(10-11)面にInGaN層が成長するside-wall quantum wellと呼ばれる構造の存在はこれまで明らかにされていなかったが,今回のHAADF STEMを用いた解析で明らかにすることができた.
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