平成16年度は、当初計画していた、空性を論証する証因のひとつである同時知覚の必然性について『善説金鬘』やツォンカパの論理学についての講義録に関して調査研究を行なった。この作業では、特にツォンカパの弟子ゲルツァプ・ダルマリンチェンの著した『量評釈註・解脱道解明』とケードゥプジェ・ゲレクペルサンポの著した『量評釈註・正理海』『量果設定』を比較検討し、ツォンカパの『善説心髄』における唯識派の空思想理論が如何に影響を与えたのかということについての概略を把握することができた。 また平成16年度の課題でもある顕教と密教における空思想の異同については、ツォンカパの二次第についての考察を中心として、さまざまな角度から文献解読ならびにその考察を行なった。特に生起次第における曼陀羅の生起についての考察を行なった。ツォンカパが本尊として信仰した怖畏金剛十三尊については、特に、ジャムヤンシェーパの『怖畏金剛伝法史』やパンチェン・ロサン・チューキゲルツェン作『怖畏金剛二次第』の解読を行なうとともに、ギュメー密教学堂における怖畏金剛十三尊砂曼陀羅の度量線の描き方をはじめ、その素材や顔料の配合などに到るまで詳細な検証を行なった。この作業によってツォンカパの空思想が具体的な形象や実践論における位置付けを確認することができた。 それ以外には、ツォンカパの弟子ケードゥプジェの著したツォンカパの空思想についての梗概と考察をまとめた『甚深空性実義解明賢劫開眼』をデプン・ゴマン学堂出身のゲシェー・ロサン・タルチン師、ゲシェー・ロサン・ツルティム師とともに解読し、ツォンカパの空思想についての歴史的独自性についての考察を行なった。これらはいまだ研究途上ではあるが、現在執筆中の学位論文や平成17年度の学会発表などでその成果の一部を公開する予定にしている。
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