今年度は、冬季成層圏極渦境界領域に卓越する水平波長2000km程度の中間規模擾乱について、その特徴と伝播・増幅メカニズムを調べ、成果を論文として発表した。 まず、欧州中期予報センター(ECMWF)の15年再解析データ(ERA15)を用いて上記中間規模擾乱の季節・緯度依存性等を調べたところ、渦位勾配が極大となる冬季成層圏極渦境界領域に卓越し、背景風に対して西向きの固有位相速度を持つことがわかった。これらの性質から、上記中間規模擾乱は極渦境界領域の渦位勾配の極大に捕捉されたロスピー波であると考えられる。以上の成果はアメリカ地球物理学会誌(Journal of Geophysical Research)に掲載済である。 次に、同程度の波長を持ち対流圏界面付近に卓越する中間規模東進波と上記中間規模擾乱との比較を行った。その結果、対流圏界面付近の中間規模東進波が変形半径よりもスケールの大きいロスビー長波的な性質を持つのに対し、極渦境界領域の中間規模擾乱は変形半径よりもスケールの小さいロスビー短波的な性質を持つことがわかった。また、両者の傾圧的相互作用によって中間規模東進波から中間規模擾乱への波動活動度輸送が起こり、中間規模擾乱の増幅に寄与していることが示された。以上の成果はアメリカ気象学会誌(Journal or the Atmospheric Sciences)に投稿中である。 さらに、第43次南極観測越冬隊が南極昭和基地で行ったラジオゾンデ集中観測データを解析したところ、冬季成層圏極渦内に周期12時間程度の短周期擾乱が検出された。客観解析データを用いた解析から、この短周期擾乱は2000km程度の水平波長を持つ擾乱であることが示されたが、極渦境界領域の渦位勾配の極大に捕捉された中間規模擾乱とは異なり、渦位勾配の逆転する領域に卓越する中立波的な性質を持つことがわかった。以上の成果はアメリカ地球物理学会誌に投稿準備中である。
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