今年度は、主に以下の4つの課題について研究を行った。 中緯度対流圏界面近傍に局在する水平波長2000km程度の小規模擾乱は、総観規模低気圧発達の前駆体、および強い風雪を伴うジェット気流上の風速極大(ジェットストリーク)の生成源として注目されている。これまでは上記小規模擾乱の水平構造のみが注目されてきたが、本研究ではその鉛直構造を運動エネルギーとポテンシャルエネルギーの比という観点から調べた。その結果、この擾乱は大きな渦位勾配を持つ対流圏界面に捕捉された波動が、対流圏界面が有限な幅を持つ効果と非地衡風成分の影響によって変形を受けたものとして解釈できることがわかった。 第43次南極観測越冬隊が南極昭和基地で行ったラジオゾンデ集中観測のデータを解析したところ、冬季成層圏極渦内に周期12時間程度の短周期擾乱が検出された。欧州中長期予報センターの客観解析データを用いた解析の結果、この短周期擾乱は2000km程度の水平波長を持ち、渦位勾配の逆転する順圧的に不安定な領域を背景風速と等しい速度で伝播する中立波的な性質を持つことがわかった。 大気中の物質輸送について調べるため、粒跡線解析モデルの開発・改良を行った。粒跡線解析とは、大気中に仮想的に置かれた粒子をその場所の3次元(または2次元)風速を用いて時間と共に移流させ、その粒子の起源、および行く末を調べる手法である。現在、上記粒跡線モデルのオンライン化作業を進めている。 波動と平均流の相互作用に着目した従来の変形オイラー平均に代わり、保存過程と非保存過程を陽に分離する改良ラグランジュ平均の手法を極渦の時間発展に適用した。その結果、放射に伴う非断熱過程が極渦の不可逆な時間発展に大きく寄与していることがわかった。
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