平成16年度は、論文の執筆と学会発表という研究成果を得た。論文については、エジプトにおいて幾世代にも渡って国会で議席を占有し続けている一族に関する研究を行った。このような一族に関する研究は、これまで国内のみならず国外でも成されたことがないものである。しかも、その研究対象は特定の一族に限定されるものではなく、エジプトの全県を対象としたもので、これまで日本の中東の政治研究にはみられなかった実証的な研究となった。この論文は、平成17年3月24日に発行された「中東・中央アジア諸国における権力構造--したたかな国家・翻弄される社会--」(酒井啓子・青山弘之編)の第2章(P71-110)に掲載した。 学会発表は、2004年10月17日に淡路夢舞台国際会議場で開催された日本国際政治学会において、「エジプト革命体制の終焉-ムバラク期の経済政策の進展と国民民主党支配の変容」という題目で行った。内容は以下の通りである。1990年代後半以降から、エジプトでは市場経済化を促進する法案が相次いで可決され、政権政党の基盤地域であった農村部にまで市場経済化が押し寄せた。そして、農協などの公的機関による農民に対する援助が減少し、農村部における貧富の格差が拡大した。その結果、これまで堅固であった政権の基盤地域であった農村において、選挙で与党候補が票を獲得できない現象が顕になるなど、与党による従来の農村支配構造が事実上崩壊の過程にあることを実証した。現在は不公正な選挙結果の操作によって辛うじて議会における多数派を維持している。しかし、高まる内外からの民主化要求に対して、1952年のエジプト革命以来始めて、政権は政治の自由化に踏み切らざるをえない状況に立たされている。
|