ATP(アデノシン5'-三リン酸)などのヌクレオチドや糖類に対する高感度かつ選択的な蛍光検出法の新規開拓に成功した。 まず、分子内にピレン基を有するボロン酸を合成した。このピレン基含有ボロン酸は、水溶液中において360-430nmにモノマー発光を示す。これに、ポリカチオンおよびATPを添加するとモノマー発光の強度が減少し、代わって430-600nmにエキシマー(励起二量体)発光が生じる。これは、四価のアニオンであるATPが静電的相互作用によりポリカチオンと結合し、更にピレン基含有ボロン酸がATPのジオール部位とのエステル形成によってポリカチオン上に集積され、ピレン基の局所濃度が上昇した結果、エキシマーの生成確率が高まったためである。このエキシマー発光のモノマー発光に対する相対強度は、ATPの濃度に応じて変化するため、蛍光の相対強度によりATPの濃度を定見することが可能である。この系は、三価のアニオンであるADP(アデノシン5'-二リン酸)にも応答するが、溶液のイオン強度を調節することにより、ATPのみを選択的に検出することが可能である。一方、二価のアニオンであるAMP(アデノシン5'-一リン酸)に対しては、検討した条件下では、ほとんど応答を示さない。 次に、ピレン基含有ボロン酸とボリカチオンを含む水溶液にグルコースを添加すると、エキシマー発光の強度上昇が確認された。このメカニズムは、ATPの場合と異なり、グルコースとボロン酸が1:2の錯体を形成して、一組のピレン基が近接した状態に置かれるため、エキシマーの生成確率が高まったことに由来する。このエキシマー発光はグルコースに対して選択的に生じ、他の糖(フルクトース、ガラクトース、リボース)に対しては、ほとんど応答を示さない。
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