金属や高分子材料の表面に、生体親和性と骨結合能を有するアパタイトと、生理活性を示す種々のタンパク質からなる複合体をコーティング出来れば、同材料は生体が本来有する組織修復能力を効果的に引き出す優れた生体材料になりうる。例えば、チタン金属は人工歯根用材料として広く用いられている。しかし、上皮組織との接着能が十分でないため、人工歯根と上皮組織の境界から細菌が侵入し、炎症を引き起こすことが報告されている。上皮細胞に対して有効な細胞接着性タンパク質であるラミニンとアパタイトをチタン金属表面に同時にコーティング出来れば、同材料は歯槽骨だけでなく歯肉上皮とも優れた接着性を示すと期待される。そこで本研究では先ず、チタン金属表面にラミニン-アパタイト複合体をコーティングする手法の開発を試み、次いで得られた試料表面における口腔由来上皮様細胞の接着性を評価した。水酸化ナトリウム及び加熱処理を施したチタン金属を、25℃に保ったラミニン含有リン酸カルシウム過飽和水溶液(L-CP水溶液)に浸漬すると、浸漬後1日で同金属表面に厚さ約2μmのラミニン-アパタイト複合体層が形成されることが分かった。次に、未処理チタン、ラミニンのみを吸着させたチタン、アパタイトのみを被覆したチタン、及びラミニン-アパタイト複合体を被覆したチタン上に上皮様細胞を播種し2時間培養した後、各試料上に接着していた細胞数を計測した。その結果、ラミニン-アパタイト複合体を被覆したチタン試料上には他の試料に比べ有意に多数の細胞が接着していることが分かった。 また、同様の手法により、アルブミンやフィブロネクチンとアパタイトの複合体をチタン表面にコーティングできることも明らかになった。さらに、ポリエチレンテレフタレートやエバールなどの高分子表面に適当な化学処理を施した後L-CP水溶液に浸漬すれば、その表面にもラミニン-アパタイト複合体層が形成され、同試料は優れた細胞接着性を示すことも分かった。
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