骨の主要無機成分であるアパタイトは生体に対して優れた親和性を示すので骨置換材料等として既に実用化されている。一方、生体内の特定の組織や細胞に作用し特定の応答を引き起こす作用のある生理活性タンパク質が近年多数同定されるようになり、これらを生体材料へ応用しようとする研究も盛んに行われている。アパタイトにこれらの生理活性タンパク質を担持させれば、得られるタンパク担持アパタイトは、アパタイト由来の組織親和性とタンパク由来の生理活性を併せ示すようになると考えられる。 そこで我々は先ず、骨だけでなく上皮組織とも優れた接着性を示す材料の開発を目指し、細胞接着タンパク質のひとつであるラミニンを担持したアパタイトを常温常圧の穏和な条件の下でチタン金属表面や高分子基板表面へ被覆することを試みた。さらに、得られた試料上への上皮由来細胞の接着性を調べたところ、ラミニン-アパタイト複合体を被覆した試料上には、未処理試料やアパタイトのみを被覆した試料に比べ多数の細胞が接着することが分かった。本法により得られた試料は人工歯根や径皮端子用材料として有用であると期待される。 また、チタン金属は人工心臓用材料として既に実用化されているが、長期間使用可能な人工心臓開発のためにはチタン金属の抗血栓性を向上させる必要がある。アルブミンを材料表面に吸着させれば同材料上での血栓形成が抑制されることが知られている。そこで我々は、先に開発した手法を利用しチタン金属表面にアルブミン担持アパタイトを被覆し、同材料の抗血栓性をヒト由来血小板を用いた動的接着性試験により調べた。その結果、同材料表面に接着した血小板の数は、鏡面研磨したチタン金属表面に接着した血小板の数に比べ少なく、ポジティブコントロールとして用いたヒト臍帯静脈内皮細胞被覆チタン金属表面に接着した血小板の数と同程度であった。従って、アルブミン担持アパタイトをチタン金属表面に被覆することにより同金属の抗血栓性を向上させられる可能性があることが示された。
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