これまでに、アブラナ科植物の自家不和合性反応が、花粉表層に存在するSP11(塩基性低分子量蛋白質)と柱頭細胞膜上に存在する自己のSRK(受容体型キナーゼ)との結合、それに伴うキナーゼの活性化によって引き起こされていることを明らかにしてきた。さらに、SRKに加えて柱頭細胞膜上に存在する60kDa蛋白質がSP11高親和性結合サイトを構成していることを見いだしている。しかし、この60kDa蛋白質の構造は未解明であった。前年度までに、柱頭抽出物よりBiotin化SP11を用いた受容体のアフィニティー精製法を確立している。そこで今年度は、この方法により得られた60kDa蛋白質について、質量分析装置(LC-MS/MS)を用い、蛋白質同定を試みた。更に、タバコ培養細胞(BY-2)での受容体の再構築を目指した。 1.受容体複合体の確析 アフィニティー精製により得られた蛋白質は、SDS-PAGEにより泳動分離した後、銀染色により可視化し、続いてトリプシンを用いたゲル内消化に供した。この消化物をLC-MS/MSに供することで蛋白質の同定を行った。その結果、60kDa蛋白質のトリプシン消化産物がSRK8の部分配列と一致し、この蛋白質がtruncated SRK8であることが判明した。また、蛋白質の分子量及び膜局在性から、このtruncated SRK8は膜貫通領域を含んでいるものと考えられた。 2.植物培養細胞での活性型受容体の再構築 これまでに植物細胞以外では、SRK8を導入しただけでは高親和性SP11受容体は得られていない。そこでタバコ培養細胞BY-2に、トマトモザイクウィルス由来のウィルスベクターを用いてSRK8を発現させ、SP11-8との相互作用を解析した。その結果、タバコ培養細胞に発現させたSRK8は、SP11-8に対して高親和性結合能を有していた。更に、SRK8の細胞外ドメインと膜貫通領域を含むtruncated SRK8も全長SRK8同様SP11高親和性能を有することが明らかになった。このことから、SRKにおいて、そのSP11結合能に細胞内キナーゼの活性は必要でないことが示された。
|