高等植物における染色体構造と遺伝子発現との関係には、単にDNAレベルにおける発現プロセスのみならず、クロマチン構造をとることによるエピジェネティックな修飾作用が存在することから、そのメカニズムを明らかにすることは、重要な問題として注目されている。筆者は、アラビドプシスにおいて、遺伝子修飾やクロマチンリモデリングに関わるDNAのメチル化やヒストンのアセチル化といった修飾作用を、間接蛍光抗体法を用い、細胞周期によるクロマチン構造の変化とその機能とを関連づけて解明した。一方、多くの反復配列DNAはメチル化修飾によりその機能が抑えられていることがわかっている。トウモロコシの染色体には、染色することだけで識別することのできる高密度反復配列からなるノブと呼ばれる領域がある。この部分には反復配列が2種類存在するが、一方の反復配列をもつノブにはメチル化修飾が生じていないことを偶然発見することができた。今年度、植物染色体の研究で世界的に有名なドイツの研究所に出張し、この部位におけるヒストンのアセチル化とメチル化について調査した。その結果、ヒストンを中心に見るとこの領域は「ヘテロクロマチン」として認識されていることがわかった。このように、反復配列による修飾の違いや、染色体上の遺伝子の転写領域のクロマチン構造を、間接蛍光抗体法による可視化技術と分子細胞生物学的手法の両面から明らかにすることにより、遺伝子発現のメカニズムについて有益な情報を得ることが可能であると考えている。また、このことは細胞における遺伝子発現の制御をゲノムレベルで理解するための重要な情報を提供するものであると考える。
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