申請者はイノラートアニオンの特性を生かした新反応の開発を目的に研究を行い、イノラートを用いたアシルシランの高立体選択的オレフィン化反応を開発している。そしてオレフィン化生成物である(Z)-β-シリルアクリル酸(ビニルシラン)がカルボニル酸素の分子内配位により超原子価構造を形成し、これによる炭素-ケイ素結合の活性化を利用するクロスカップリング反応を開発した。平成17年度では、第14族元素を用いてこれら両反応を検討し以下のような新知見を得ることができた。 1.アシルゲルマンのオレフィン化を検討し、アシルシランの反応と同様に完璧な立体選択性で(Z)-β-ゲルミルアクリル酸を得た。アシルスズのオレフィン化反応も高立体選択的に進行し(Z)-β-スタニルアクリル酸を合成することに成功した。一方α-シリルケトンを基質に用いると、アシルシランの反応とは立体選択性が逆転しE体のオレフィンが優先して得られた。この立体選択性はβ-ラクトンエノラートの電子環状開環反応におけるtorquoselectivityを考察することで説明できる。 2.イノラートとアシルシランの反応より得られるβ-ラクトンエノラートをプロトン化そして脱炭酸することにより多置換ビニルシランが立体選択的に得られることを見出した。本反応は、アルキル化も立体選択的に進行し、汎用性の高いビニルシランの合成法である。 3.(Z)-β-ゲルミルアクリル酸もまた超原子価構造を形成することを明らかにし、そのクロスカップリング反応により四置換オレフィンを高収率で合成した。パラ位に電子吸引性基をもつヨウ化アリールを基質に用いると極めて効率的に進行することが分かった。 4.カップリング生成物はHunsdiecker反応によりハロゲン化アルケンへと変換でき、これを用いて乳癌治療薬タモキシフェンを短工程で合成することに達成した。
|