研究概要 |
大脳の約30%と大きな部分を占める前頭連合野は,系統発達的にヒトで最もよく発達している。1990年代のPETやfMRIを用いた研究により,知的活動と前頭連合野機能に関して新たな発見がなされた。意識や知能,記憶など知的活動を行う前頭連合野は,起きている限り休息することは不可能である。睡眠は身体回復機能のみならず,前頭連合野を深く眠らせて精神的な疲労を回復する大切な営みを担っている。しかしながら近年行われた疫学調査では,睡眠に関する問題を抱えて困っている人は19.6%にのぼることが判明しており(厚生労働省・神経疾患研究委託費平成7年度報告書),2000年NHK国民生活時間調査によると,日本人の30代40代では平日平均睡眠時間は7時間をきることが報告されている。 前頭連合野は,知能,記憶などの一般知能の他に,他者の心を認知し他者の行動に対応する社会知能の役割をも一部果たしている。したがって前頭連合野機能の休息不備は,心の発達や行動選択,行動制御に悪影響を及ぼすことが予想される。睡眠によって脳を休息させ,日中適正な覚醒水準を維持することは,知的活動を行う上で必要条件となるが,心理特性,生理特性が日中の意欲や生理的覚醒水準ひいては前頭連合野機能にいかなる影響を及ぼすかは明らかとなっていない。そこで前頭連合野機能に及ぼす心理特性・生理特性と睡眠による機能変化を解明するため,調査および実験を実施した。 研究の内容に対して十分に説明し同意の得られた,首都圏に在住する,夫,妻,子ども1名以上の家族構成で,構成員全員の協力が得られる,1,230家族に対して,睡眠健康と生活・睡眠習慣に関する調査を実施した。その結果,睡眠健康および睡眠習慣に関して,夫婦は相互に影響を及ぼし合うこと,特に夫から妻に対する影響の大きいことが確認された。また,父親または母親いずれかの睡眠健康が悪化している場合,子どもの睡眠健康が悪化していた。特に6歳未満の子どもに対しては,母親の睡眠健康の悪化が子どもの睡眠維持,目覚めや寝つきの健康度,睡眠習慣に強く影響することが示された。 また,主観的に入眠困難を感じている若年者を対象として,夜間部分断眠後のメンタルワークロード負荷実験を行い,結果の一部を平成15年度日本睡眠学会にて発表した。現在,研究を継続中であり,今後引き続き前頭連合野機能に対する精神生理学的なメカニズムを検討する。
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