2004年10月〜翌年1月にマダガスカル北西部のアンカラファンツィカ国立公園で野外調査を行なった。対象鳥類マダガスカルサンコウチョウ(以下サンコウチョウ)の巣を林内で発見し、昨年度に引き続き、繁殖成功率の算出、ビデオカメラによる巣の捕食者の種の同定、営巣場所の特性の記録を行なった。この結果、巣立ちの成功率は30%程度であること、巣の主要な捕食者はブラウンキツネザルとシロハラハイタカであること、周りの植生による被度が、巣の捕食に影響する要因であること、等が確認された。また巣に温度データロガーを設置し、その温度変化から捕食が起こった時間帯を推測する試みを行なった。観察結果から、この試みは有効であることが確認され、捕食が早朝および夕方に多く起こっていることが明らかになった。さらに、サンコウチョウの巣において、巣の捕食者の音声に対する親の反応を調べるプレイバック実験を行なった。すなわち、1)同所的に棲息する潜在的な巣の捕食者(ブラウンキツネザル・カギハシオオハシモズ)の音声を流したとき、2)同所的に棲息するが捕食者になりえない種(マダガスカルシキチョウ)の音声を流したとき、3)音声を流さないとき、で、実験開始から親が巣に入るまでの時間の長さを比較した。この結果、潜在的な巣の捕食者の音声を流したときは、捕食者でない種の音声を流したときや全く音声を流さないときに比べて、親の巣に入るまでの時間が有意に長くなることがわかった。つまり、親は巣の捕食者が近くにいるときには巣に入るのを遅らせていることになる。この実験により、サンコウチョウは、自身の捕食者だけでなく子に対する捕食者の音声も認識しており、巣の捕食の危険性を回避するために、子の世話の行動を変化させていることが明らかとなった。
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