初年度である本年度は、社会運動の動態を政治的側面から捉えるために、主に次の3点から研究を進めた。 社会運動のイベント分析については、既存のデータを用いて分析することで従来の議論の再検討を行った。その結果、日本の社会運動のダイナミクスを捉えるうえで政治的機会構造が有効であることを確認できた。また、分析の結果から政治的機会構造論をさらに精緻化していく示唆を得た。この成果については、曾良中清司他編『社会運動という公共空間』に掲載される予定である。 また、人々が社会運動をどのように捉え、なぜこうした形態での政治参加を行うのかという観点からも課題の検討を試みた。そのために反戦デモ参加者の属性や政治意識などについての質問紙調査を行った。ここから、従来とは異なる特徴をもつ運動参加者像を捉えることができた。現在、この調査結果を論文としてまとめ学術誌に投稿する準備を整えている。 このほか、政治参加の代表的な形態である投票行動についても分析を行った。近年、注目されている社会関係資本としての信頼に着目して日米における投票行動のロジックの相違を解明した。これについては、科学研究費報告書『投票行動の社会心理学的分析』(研究代表者:梶原晃)に掲載される予定である。投票行動との比較を行うことで社会運動という政治参加の特徴をより鮮明に描き出すことができると考えられる。 来年度以降も引き続き、これらの研究を発展させながら課題に取り組んでいく。まず、上記の実証的研究から得られた知見をもとに理論的検討を深めていく。社会運動という政治参加形態の位置づけを明確にし、政治的機会構造など政治的状況との関連から運動のダイナミクスを解明する予定である。数理モデルによるフォーマライゼーションにより、精緻な議論を進めていく。さらに、その知見をデータと照合させることで、日本の社会運動の特徴とそのダイナミクスを解明していきたい。
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