今年度は、大きく分けて3点について研究を進めてきた。第1に、社会運動の発生や行為形態を規定する政治的要因についての数理解析を行った。まず、従来の社会運動論ならびに政治学、政治社会学の諸研究に基づき、政治的機会構造の分析枠組みを構築した。そして、政治的機会構造の下での、運動体と政治体というアクター間の相互作用行為を、ゲーム理論的モデルを構築することで分析した。その結果、社会運動の発生に対しても、行為形態の選択に対しても、政治体と支持者との関係で表される政治的機会構造が非線形的な効果をもつことを明らかにした。 第2に、社会運動のイベント・データの作成作業を進めた。朝日新聞をデータ・ソースとして、戦後60年の社会運動イベントに関する情報を収集し、数量的データへの変換を行っている最中である。次年度には上記の数理解析の結果をふまえつつ、データ分析を行う予定である。 第3に、人々が社会運動をどのように捉え、なぜ運動という形態での政治参加を行うのかという観点から課題の検討を試みた。まず、イラク戦争反対デモ参加者に対する質問紙調査データの分析を行い、これまでの社会運動研究と照合するかたちで、社会的属性と政治意識の面から現代日本の運動参加者像を明らかにした。このほかに、合理的選択理論に基づく運動参加研究を再検討し、社会運動という形態での参加だけの分析にとどまらず、様々な政治参加の中に運動参加を位置づける新たな分析枠組みが必要となることを論じた。 次年度も引き続き、これらの研究を発展させながら課題に取り組んでいく。まずはイベント・データの整備を行うことが先決である。そして、数理解析に基づく理論的知見とデータに基づく実証分析を接合させ、日本の社会運動の特徴とそのダイナミクスを解明していきたい。
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