本研究は、サイトカイン賦活能を有しているスルホン化-PGAとキトサンを用いたナノレベルで構造制御された新規なドラッグデリバリーシステムの構築を目的としており、具体的に、1.bFGFを担時させたスルホン化-PGAとキトサンによる生分解性複合DDS材料の創製、2.調製したDDS材料からのbFGF徐放評価、3.徐放されたbFGFの活性評価及びin vivoでのbFGF徐放能や安定性、生理学的評価という3段階から構成されている。平成15年度は計画の1〜2段階目の遂行を試み、更に、スルホン化-PGAのbFGF賦活能について詳細に検討した。 これまで、デキストラン硫酸とキトサンによる交互吸着膜がリン酸緩衝液や細胞培養の培地中において極めて安定であることが知られているため、本研究では、デキストラン硫酸とキトサンの交互吸着膜を基本膜として用いることを考案した。つまり、デキストラン硫酸とキトサンにより安定な生分解性交互吸着膜を調整し、bFGFとスルホン化-PGAの膜をデキストラン硫酸とキトサンの交互吸着膜でサンドイッチした構造である。このような構造にすることで、高い安定性とbFGF賦活能を併せ持つ生分解性DDS材料が構築可能である。現在は、bFGFの担持・徐放能について検討を重ねている。この成果を、日本化学会春季年次大会にて発表する予定である。 また、スルホン化-PGAのbFGF賦活能を詳細に検討した。分子軌道法によりスルホン化-PGAとbFGFの相互作用形態を検討した結果、スルホン化-PGAのスルホン基とアミド基がbFGFのリシンやアルギニンと水素結合や静電相互作用を形成していることを明らかとした。この研究の成果は、既にBioconjugate Chemistryに投稿中であり、第52回高分子年次大会、第52回高分子討論会、Advances in Petrochemical and Polymers in the New Millennium Conference、ICAM2003など国内外の諸学会にて発表し、高い評価を受けた。また、スルホン化-PGAのbFGFへの結合定数をELISA法により測定した結果、4.8×10^6 M^<-1>という値が得られ、非常に強く相互作用していることを明らかとした。この研究成果も、日本化学会春季年次大会にて発表する予定である。
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