本研究は、塩基性繊維芽細胞増殖因子(FGF-2)に着目し、(1)FGF-2と相互作用可能な生分解性複合DDS材料の創製、(2)FGF-2の徐放量制御、(3)徐放されたFGF-2の活性評価、という3段階から構成されている。平成16年度は計画の(2)-(3)段階を達成し、本研究課題を総括する目的で研究を行った。 スルホン基を72%導入したポリγ-グルタミン酸(γ-PGA-S72)を合成し、そのFGF-2活性を評価した。細胞増殖試験やコンプレックス形成評価の結果、γ-PGA-S72はスルホン基とカルボシル基を介してFGF-2と静電相互や水素結合を形成できることを明らかとした。また、γ-PGA-S72が酸や熱に対するFGF-2の保護活性を有していることを見出した。また、γ-PGAとγ-PGA-S72の生分解性ヘテロゲルを調製し、その細胞接着性、FGF-2担持能を検討した。その結果、γ-PGAのネットワーク中に存在しているγ-PGA-S72鎖の効果により、ヘテロゲルは高い細胞接着性・増殖性・FGF-2坦持機能を有していることを明らかとした。さらに、γ-PGA-S72ヘテロゲルが酸性pHに応答して収縮することを見出した。この酸性pHでの収縮を利用して、酸性環境を認識してFGF-2の徐放量を制御することに成功した。生体の創傷部位は酸化作用によりpHが酸性に変化しているため、γ-PGA-S72ヘテロゲルは創傷部位の炎症の程度に応じてFGF-2の徐放量を制御可能なインテリジェントDDS材料として期待される。 また、新規なDDS担体としてγ-PGAナノ粒子や生分解性ナノカプセルを調製し、FGF-2の徐放担体として検討中である。 以上より、ナノ構造を制御することでFGF-2と相互作用能を有した新規な複合DDS材料を調製することが可能であり、本研究課題を達成することができたと考えている。
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