K中間子のセミレプトニック崩壊は、小林・益川混合行列要素|Vus|の決定に適した過程であるが、実験で得られる崩壊率から|Vus|を求めるには、形状因子が理論的に精度良く求められている必要がある。これまでは、カイラル摂動論とクォーク模型に基づいた計算結果が用いられてきたが、格子QCDによる第一原理計算が望ましい。そこで我々はアップ・ダウンクォークの動的効果を取り入れた2フレーバーQCDの計算により、必要な形状因子を1%の精度で求めることを試みた。この計算は、以前、B中間子のセミレプトニック崩壊形状因子を計算する際に橋本たちフェルミ研究所のグループが用いた3点間数の2重比をとる方法を応用しているが、運動量に対する内挿が必要になる点が異なっている。我々の結果は統計誤差の範囲内で従来のカイラル摂動論の結果と一致しており、格子QCDで数パーセントの精密計算ができることを示した。しかしこれまでのシミュレーションはストレンジクォーク程度の重い質量領域で行われており、現実のクォーク質量に向けたカイラル極限による系統誤差が最も大きな不定性として残っていると思われる。この系統誤差を取り除くには現状より軽いクォーク質量でのシミュレーションが必要であり、将来の課題である。また、ストレンジクォークの質量をアップ・ダウンクォークの質量と同じにすることにより、π中間子の形状因子も求めることができる。これについても系統誤差の評価が最重要課題である。 以上の結果は、格子理論の国際会議であるLATTICE2005、および素粒子原子核分野の国際会議PANIC05で発表された。論文は現在準備中である。
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