本年度は、近代日本の文化史、とりわけ第二次世界大戦後の大衆音楽文化に関わる一次資料、二次文献、録音・映像資料を広く査収し、その言説編制について歴史的な見通しを得た。資料の検討の結果、明治以来、日本の大衆音楽は知的な言説のなかでは黙殺され、または軽蔑の対象であったが、1960年代末以降、「歌謡曲」とりわけ「演歌(艶歌)」が、「土着的」であるがゆえに「民衆的」なものとして進歩的/前衛的な知識人によって肯定的に捉えられたことを端緒に、遡及的に近代日本の音楽文化史を貫く特権的な範疇として措定された、という知見を得た。この主題に関しては近日中に論文として発表する予定である。 また、民族音楽学研究及びその隣接領域である人類学、社会学、ポピュラー音楽研究などの文献資料を査収し、広く学際的な立場から理論的研究を行った。その成果として、スロヴェニアの哲学者であるアレス・エリャヴェチの論考「グローバライゼーションの諸過程-美学の場合」の翻訳(『美学薬術学研究』第21号)と、日本民族学会関東支部(2003年12月6日於東京大学)での発表「『ワールドミュージック』研究の動向と展望-音楽における『グローバル/ローカル』の再定義」がある。 歴史的研究と理論的研究の双方にまたがるものとして、日本の「ワールドミュージック」現象を「自己オリエンタリズム」という理論的枠組において論じた既発表の英語論文"Are we the 'World'Whose Children Are We ? "が、若干の改稿を経てポーランドの学術雑誌Dialogue and Universalismに掲載された。また、民族音楽学者・小泉文夫の業績と日本における「民族音楽」概念の成立と変容をめぐる論考が、東京大学教授・渡辺裕を中心に企画進行中の近代日本の国民音楽に関する論文集(春秋社より刊行予定)に掲載予定である。
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