本年度の研究では、主にバナナ型液晶分子の合成を中心に行い、バナナ相の発現に必要な分子構造についての検討を行った。新規バナナ型分子の設計として折れ曲がり構造を有するヘテロ環化号物を選び、様々液晶分子を合成した。これら新規バナナ型分子液晶相の同定を行うことで得られた知見は以下の通りである。 ・ヘテロ環を中心コアにもつバナナ型分子の合成 ヘテロ環化合物として、オキサジアゾール環およびチアジアゾール環を用いて折れ曲がり構造を有する液晶分子を合成した。これらの液晶相挙動を偏光顕微鏡、X線回折等により検討した結果、オキサジアゾール環を有する分子のみにバナナ相を発現することがわかった。オキサジアゾール環とチアジアゾールの環の主な違いはその折れ曲がり角であり、より大きな折れ曲がり角を有するチアジアゾール環を有する分子では通常の棒状液晶分子と同様に振舞うことから、バナナ相を形成させるためには適度な折れ曲がり角が必要であることがわかった。 ・オキサジアゾール環を中心コアにもつバナナ型分子が形成するキラル液晶相 オキサジアゾール環を中心コアにもつ液晶分子は高温領域においては通常の棒状液晶分子と同様のネマチック相やスメクチック相を形成するが、低温領域においては高次のスメクチック相を形成する。偏光顕微鏡観察において、この高次スメクチック相はキラルなドメインが観察され、また円二色性スペクトルにおいては明確なピークが観測された。これらの結果により、オキサジアゾール環を折れ曲がり構造にもつバナナ型分子が形成する液晶相において、らせん構造を有するキラルな構造が自発的に誘起されていることがわかった。
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