研究概要 |
本年度の研究内容は,双曲空間上のShrodinger作用素の固有値の漸近分布の問題とその拡張である.Euclid空間やその類似の空間上では,Shrodinger作用素の固有値の漸近分布は非常によく研究されており,ある意味では解析学の本流とも言える問題である.この種の問題は非常に多くの拡張が存在するが,なぜかまだ双曲空間上では解決されていなかった. 私は双曲平面上で,スカラーポテンシャルをもち,ベクトルポテンシャルはもたないShrodinger作用素の固有値の漸近分布を計算した.証明の手法は確率論をもちいたもので,Euclid空間の場合には非常によく知られた方法である.この証明法をMalliavin解析という理論を使って,双曲の場合に正当化することにより,非常に簡潔な証明をあたえることに成功した.この論文は白井慎一氏との共著で,J.Funct.Anal.に掲載予定である. さらに,上の結果の拡張として,双曲平面のかわりに,実または複素の双曲空間で同じ問題を考えて,論文にまとめた.証明方法は大筋おなじといえるが,細かい点はより洗練されていると思う.この論文は白井慎一氏との共著で,J.Math.Pures Appl.に掲載予定である.また,四元数双曲空間上への拡張を,桑田和正氏,白井慎一氏との共著でまとめて投稿中である. また,ベクトルポテンシャル(磁場)をもつShrodinger作用素への拡張が考えられる.磁場がスカラーポテンシャルにくらべて弱い場合に関して,双曲平面上での固有値の漸近分布を計算した.白井慎一氏との共著でまとめて投稿中である. これとは別に前からすこしずつ研究を進めている,多様体上の道の空間の確率解析に関して,Anderssonとdriverが示した近似定理の拡張を考えた.これは多様体上の接続を一般化した点が,論文の意味である.
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