今年度はまず、無限次元空間上のrough path理論の確率解析への応用の研究を行なった。rough path理論は確率微分方程式の解の解析を行なう際に、既存のマリアヴァン解析とは異なる視点を持っており、確率解析の研究にも新たな展望を与えるものと期待される。具体的には、稲浜 譲 氏(大阪大学)との共同研究で、ループ空間上のheat processやheat kernel measureに関する大偏差原理を得る事に成功した。この論文は現在、投稿中である。 また秋にドイツに渡り、Bielefeld大学のMichael Rockner教授とBonn大学のSergio Albeverio教授の下で研究活動を行なった。これは今までの、経路空間上のGibbs測度に関する解析学の研究成果をさらに深化させるためであり、非常に有益な滞在となった。滞在中にRockner教授の指導の下、経路空間上の2階微分作用素が本質的自己共役である事を、確率偏微分方程式からのアプローチで証明することに成功した。現在、この研究成果をRockner教授との共著論文として準備中である。 これとは別に、無限次元空間上の確率過程に関するマリアヴァン解析の研究も進めている。具体的にはWiener空間上の退化した係数を持つ確率微分方程式に対応する非一様な拡散作用素が有限次元の場合と同様に、Hormander条件の下で準楕円性を持つ事を示す事ができた。現在、この研究成果を部家 直樹氏(東京大学)との共著論文として準備中である。また、数理ファイナンスの金利モデルへの応用を目的とした確率偏微分方程式へのマリアヴァン解析の研究も始めている。
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