研究概要 |
強磁性半導体であるマンガン酸化物を用いた電子の流れおよびスピン自由度の制御(スピントロニクス)は、生体情報伝達システム模倣型センサの創成に大きく寄与することが期待されている。これまでに主に研究されてきた2価のカチオンをドープされたホールドープ系では、マンガン3d軌道の電子状態はt_<2g>^3e_g^1とt_<2g>^3である。これに対して4価のカチオンをドープされた系では、その電子状態はt_<2g>^3e_g^1とt_<2g>^3e_g^2となりe_g軌道にエレクトロンがドープされた系に成りえることが示唆されている。そこで、本研究ではCeイオン(4価)をLaMnO_3中にドープした系について検討した。レーザーMBE法を用いてLa_<1-x>Ce_xMnO_3薄膜を作製した。成膜後にアニール処理を行ったところ、アニール温度の上昇に伴い金属絶縁体転移が発現しその転移温度が上昇していることが明らかとなった。同様の傾向が磁気特性においても見られ、そのキュリー温度はアニール温度に伴い上昇した。Hall効果測定、熱起電力測定、TEM-EDS法により薄膜中のキャリアタイプおよび微細構造について検討したところ、ペロブスカイト構造とは異なるCeO_2析出相がナノクラスタ(XRD測定では検出不可能として存在していることが明らかとなった。以上の結果は、Ce-doped LaMnO_3系における相転移現象CeO_2ナノクラスタ形成に起因するホールドーピングに由来するものであることを示している。そこで、Aサイトにイオン半径の異なるNdを用いた(Nd,Ce)MnO_3系について検討を行った。興味深いことに、(Nd,Ce)MnO_3系においては(La,Ce)MnO_3系で見られたようなCe-richナノクラスタは全く観察されなかった。これらの結果は(Nd,Ce)MnO_3系が本質的に(La,Ce)MnO_3系と異なる物性を有していることを示唆するものである。
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